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Archive for the ‘iNovel!関連’ Category

物語が届く昂奮

01 3月

 

最近、ブログの更新が多くなっている、たにぐちです。

正直に申し上げると電子書籍化の方が少し滞っているからなんですね、今AppleさんのiOSデベロッパプログラムの方が申請待ちでして、差し迫ってすることがなく手持無沙汰なわけです。いややることはわんさかあるはずでして、その他のことをやればいいんですけど、これまで目の前の切迫したジョブだけを片付ける感じでやってきた人間でして、どうも踏ん切りがつかい状態でして、頼りなくて申し訳ありません。

ということで今回もとりとめない記事を書かせていただきます。

 

電子書籍が過渡期の真っただ中にあるのは誰に目にも明らかなわけです。いえ過渡期にも今は入っていないのかもしれませんが。

ただある程度、私もこの電子書籍化事業の目標やら、やりたいこと、やれないことなどが見えてきまして、電子書籍によって本当に自分がやりたいこと、自分がすべきことは何なのだろうかを、今更ながら考えております。これは事業としての目標ではなく、私の理念として、その指標を何とするのか、そんなことを考えていたりします。アマチュアのプロ化への道を模索するという目的はもちろんありますがそれは楓出版の経営上での理念でして、それは読者には関係ないことなのです。出版社として読者とどう向き合っていくべきなのか、それが今私が考えなければならないことです。そして良い作品を提供することが出版社に求められていることなのだと思います。しかしただ面白い、良い作品を提供するだけでいいのか、と疑問に立ち返るわけです。

読書の原初体験は誰にでもあると思います。私は物心ついたときすでに、漫画や絵本が周りにあふれていました。そうですね、私にとっての幼少期の読書は本ではなく漫画だったと思います。小学生に入って図書館で本を借りたり、塾で借りたズッコケシリーズに夢中になったりもしましたが、やっぱり中心は漫画だったかな。他にも私の周りにはテレビやアニメなど娯楽に溢れていたように思います。高校生になって、読書に興味を覚えはじめ、文庫本の本を読み漁るようになって、そして大学に入ると、映画に興味を持ち、何本もレンタルビデオで借りて観るようになったりもしました。そうやって振り返ってみると私の中心にあったのは常に誰かの物語だったように思います。

『良質の物語を提供すること』換言するならば『物語によって社会に普遍性を浸透させるための啓蒙を行うこと』それがこれまで出版社が私に果たしてくれた理念だったのではないかと思っています。私の実家は商売をしておりまして、毎週店舗兼自宅にはジャンプやマガジンが町内の小さな本屋から届けられていました。今でも実家に届けられていると思います。その漫画雑誌にはたくさんの興奮と感動が詰まっていました。前日には待ちきれなくなっていたように思います。私が理想とするのはそんな物語です。そして電子書籍においても目指すべきはそこなのだと考えています。物語が届けられるという昂奮を提供したい。子供のころに夢中になった物語、大人になっても夢中にさせてくれる物語、その両方を発掘し、読者に送り届けたい、そんな風に考えています。小説専門を謳っていながら小説に限定しないような発言が続いてますが、いちおう電子書籍って漫画も、映画も、アニメも実は取り込める媒体なのですよね。チャンスがあれば、積極的にミックスカルチャーとして取り込んでいこうかなというかその可能性はとりあえず残しておきたいかなと思っておるわけです。

まあ、なんて臭いことを言ってみたり。

あそろそろ、iPad2 が発売されるのではないかと噂されている時期(が押し迫っているみたいですね3/2でしたっけ?)。どんな感じなのだろうか。ちょっと気になっております。

 

 

太宰治『人間失格』iNovel形式にて電子書籍化

04 2月

代表作ですね。太宰治作第四弾『人間失格』です。


    はしがき

 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
 一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く? けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何とも無いような顔をして、
「可愛い坊ちゃんですね」
 といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞えないくらいの、謂わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いささかでも、美醜に就いての訓練を経て来たひとなら、ひとめ見てすぐ、
「なんて、いやな子供だ」
 と頗る不快そうに呟き、毛虫でも払いのける時のような手つきで、その写真をほうり投げるかも知れない。

※本文より冒頭部分を引用 

 

 

 

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太宰治『ヴィヨンの妻』をスマートフォン用に電子書籍化しました。

02 2月

太宰治作第二弾『ヴィヨンの妻』です。2009年に映画化もしまして、『パンドラの匣』同様に太宰治の代表作の一つとして数え上げられている名作です。

 


 

 あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。
 夫は、隣の部屋に電気をつけ、はあっはあっ、とすさまじく荒い呼吸をしながら、机の引出しや本箱の引出しをあけて掻きまわし、何やら捜している様子でし たが、やがて、どたりと畳に腰をおろして坐ったような物音が聞えまして、あとはただ、はあっはあっという荒い呼吸ばかりで、何をしている事やら、私が寝た まま、
「おかえりなさいまし。ごはんは、おすみですか? お戸棚に、おむすびがございますけど」
 と申しますと、
「や、ありがとう」といつになく優しい返事をいたしまして、「坊やはどうです。熱は、まだありますか?」とたずねます。
 これも珍らしい事でございました。

※本文より冒頭部分を引用 

 

 

 

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太宰治『パンドラの匣』を電子書籍化しました。

01 2月

 

君、 思い違いしちゃいけない。僕は、ちっとも、しょげてはいないのだ。君からあんな、なぐさめの手紙をもらって、僕はまごついて、それから何だか恥ずかしくて 赤面しました。妙に落ちつかない気持でした。こんな事を言うと、君は怒るかも知れないけれど、僕は君の手紙を読んで、「古いな」と思いました。君、もうす でに新しい幕がひらかれてしまっているのです。しかも、われらの先祖のいちども経験しなかった全然あたらしい幕が。

※本文より引用

青春小説の金字塔、太宰治の『パンドラの匣』を電子書籍でご用意しました。スマートフォンでも快適に読めるようレイアウトされています(もちろん大型の端末でも快適に読むことが出来ます)。少しずつコンテンツを増やしていこうと思っております。

 

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夏目漱石『坑夫』ルビ付き

09 1月

つづいて夏目漱石の『坑夫』です。もちろん無料にてダウンロードしていただけます。iNovelの読みやすさをぜひご体感ください。

先日の記事の話になりますが夏目漱石先生はいいですね。先日アップした『三四郎』を読み終えたのですが、本当に面白かったです。与次郎がなあ、与次郎が、ほんとーにいい味を出しています。「偉大なる暗闇を書いた」零余子がいつのまにか主人公になっているところ(P500)は笑いましたし、ラストの野々宮さんが招待状を破り捨てたところ(P576)はさりげないのに印象深かったですし、美禰子が小川にストレイシープと囁きかけるところ(P253)なんて、漱石先生!漱石!と小躍りしたくなりましたよ。ほんとすこぶる良い読書体験をさせていただきました。

 

『坑夫』のダウンロード先はこちら